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講演録

:北海道女性医師の会が開催した講演会のご紹介です。

2018医師と学生の会 報告書


「がんと遺伝子~私たちの研究が、患者さんの未来を変える~」

JCHO北海道病院:長井 桂

日  時:10月20日(土) 14:00~17:00
場  所:北海道大学 医学部学友会館「フラテ」 特別会議室
     札幌市北区北15条西7丁目
参加人数:20名

医師と学生が共同でテーマを考え実行するこの会は平成24年から札幌医科大学と北海道大学合同で開催してきました。「がん」のこれからの診断や治療に関して各専門の先生にお話しを伺いました。


●寺本 瑞絵 先生
 札幌医科大学産婦人科学講座 講師

家族(柴犬・金魚を含む)の紹介など親近感のあるオープニングをしていただき、寺本先生のお陰で緊張気味だった会場の雰囲気がぐっと和らぎました。さらに産婦人科という激務を要する教室にもかかわらず、結婚・出産を機に離職した先生はいないという画期的な報告をしていただきました。
女性が多く、子供を持つ方も多いのですが、チーム制の導入、カンファレンスを朝にまとめる、柔軟な勤務体制、仕事へのモチベーションを与える工夫、パートナーの異動先と合わせて異動、さらに妊活サポートまで離職が無いように様々な工夫を行っていることが功を奏しているようです。これらの工夫を成長活動軸と働き続けやすさ(ケア)軸を用いてグラフにして示していただき大変参考になりました。産婦人科はもちろんスポーツドクターや臨床遺伝専門医などの資格を有しておられる先生は遺伝性腫瘍、家族性腫瘍について取り組んでおり、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について教えて下さいました。
病的変異のあるBRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子を持つ場合に性別に関わらず50%の確率で遺伝するため、変異陽性女性の健康管理が重要となってきます。発症し亡くなられた母親の子供に遺伝性疾患について伝えるのは大変困難な仕事ですが、正しい情報を伝えることで、将来きちんと健診を受けリスク低減手術など自己決定をできるように導くことが大事なのだと分かりました。
これからも産婦人科医として、遺伝カウンセリングを行う専門医として活躍されることを願っております。


●佐藤 千佳子 様
 静和記念病院がん遺伝子検査外来
 メディカル・コンシェルジュ

同じ業界では働かないというモットーで数々の職種を経験された佐藤さんには、圧倒的な人間力を感じました。「佐藤さんの人生を本にしたら5~6冊は書けるね」と西原先生に言われたのにも納得です。
人と接するプロである佐藤さんに、その心構えのエッセンスを教えていただきました。好きな物だけではなく嫌なことや辛いことにも「好奇心」を持つことで自分自身にも興味を持つことに繋がるとのことです。コミュニケーション力(ちから)は重要であり、人のため自分のためになること、人との関りを常に持つこと、傾聴力を高めること、会話の中から相手の想いを引き出す必要があること、私が学ばせていただくためにきくという姿勢を持つこと、などを教えていただきました。特に「聴く」というのは、相手の心の中の不安や怒り恐れをきくこと、表情や感情口調の変化を読み取ること、関係性を確かめ合うことという3つが大事とのことです。
これらのスキルや心をもって患者さんに接するため、相談開始の初めての電話での会話から検査結果説明後のフォローに至るまでしっかりとサポートできるのだと思います。たとえ思わしくない結果であっても残りの人生を自分らしく生きるために「意欲の再生」の手助けを行うと言う言葉が印象的でした。最後はやはり心の持ち方が重要であり、医療スタッフの諦めない心が患者さんを救う事例を見てきたそうです。「何でも話してこらん、きっと心が軽くなるよ!」の言葉は、全ての医療スタッフが持つ必要があると感じました。ご講演の内容は仕事だけでなく人生において役立てることができると思います。


●西原 広史 先生
 慶応義塾大学医学部
 腫瘍センターゲノム医療ユニット 特任教授

がんのゲノム診断のため生体試料管理室やバイオバンクの立ち上げなど、まさにがんゲノムの夜明けを実践してきた西原先生。北海道大学病院で院内クリニカルシークエンスシステムとしては国内初となる網羅的がん遺伝子解析システム「クラーク検査」を開発しました。がんによってはがんの発生や進展に強くかかわっている遺伝子(ドライバー遺伝子)異常があり、がん細胞の生存が特定の遺伝子に依存しています。
現在ドライバー遺伝子異常を標的とする分子標的薬は臓器別に保険適応が決められていますが、遺伝子異常が同じなら発症臓器が違っても効くことがあります。治療法が無くなった場合でも、原因遺伝子を調べそれに対する薬を見つけることができる可能性が出てくるのです。
先生は一人ひとりの患者さんに適した治療である「プレシジョン・メディシン」を実現するため、次世代シークエンサーを用いて、160遺伝子を網羅的に調べる「プレシジョン(PleSSision)検査」を実施しています。しかし、遺伝子を網羅的に調べるには約70万円と費用がかかること、原因遺伝子が見つかり対応する薬があったとしても、調べている間に亡くなられるなどで治療できる人は13%しかいないそうです。プレシジョン・メディシンは治療の初回から用いられるべきで、そのためには薬剤の奏功を個別化医療の観点で正しく評価する新たな診断基準が必要であることや、遺伝子検査を低額で行う試み、ヒトの2万遺伝子を全て調べる方法の開発なども進めていることなど、がんの未来についてのお話は学生さんにとっても大変刺激になったと思います。


●樋田 京子 先生
 慶応義塾大学医学部
 北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野
 口腔病理病態学教室 教授

「研究者人生と親業は同時に始まった」と、突然のキャリア転換を表現された樋田先生。双子を出産し夫について渡米した際に、ラボで働いてみてはとご主人に勧められ研究者の道に足を踏み入れます。ハーバード大のジュダ・フォルクマン博士は腫瘍血管内皮細胞はがん治療薬のよい標的となると提唱し、その教え子であるクラグスブラン先生の下に行くのですが、最初は望まれてはいなかったと言います。
腫瘍血管内皮の培養の報告は無く性質は不明であったことから、「腫瘍血管内皮細胞の分離」が雇用条件でした。みごと腫瘍の1~2%である血管内皮細胞の分離に成功し、核異型があることや染色体異常がみられることなどを突き止めます。当時は血管とは全身にわたり同一な性質をもち正常であるという認識であったため、先生の研究で腫瘍血管を治療のターゲットにする新たな戦略がスタートします。
留学から戻ると共同研究の研究費獲得に貢献し特任准教授として活躍しますが、独立するということは部屋代とスタッフの給料を払うため研究費を稼ぐことだという言葉が印象的で、先生の研究に対する覚悟が見えた気がします。双子を連れて留学なんてムリ、腫瘍血管内皮細胞の分離なんてムリなど周囲に言われたものの、「まずはやってみる」「一所懸命すると人の縁にも恵まれる」という方針でここまで来たとのことでした。結果、壁を乗り越えたときの達成感は格別であり、それを仲間と分かち合えると喜びも倍増したという人生になったそうです。コンパニオン診断薬の開発やトランスポーターを標的とした治療など次々と研究が広がりさらに忙しくなられると思いますが、先生のお話は研究者を目指す学生さんに強いモチベーションを与えたと思います。


講演の際には活発な質疑応答があり、その後のグループディスカッションでは小グループに分かれ直接疑問や質問を講師の先生になげかけ、充実した時間となりました。
終了後の懇親会でも大変に盛り上がり楽しい時間を過ごすことができました。



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これからのキャリアを語る医師と学生の会2018


『がんと遺伝子』
  ~私たちの研究が、患者さんの未来を変える~


日 時:2018 年10月20日(土)14:00 ~17:00

場 所:北海道大学医学部学友会館 『フラテ』
    特別会議室(札幌市北区北15条西7丁目)

参加費:学生無料、 医師・コメディカルスタッフ 1,000円

講 師:寺本瑞絵 先生/札幌医科大学 産婦人科学講座 講師
    佐藤千佳子 氏/静和記念病院 がん遺伝子検査外来
            メディカル・コンシェルジュ
    西原広史 先生/慶応義塾大学医学部 腫瘍センター
            ゲノム医療ユニット 特任教授
    樋田京子 先生/北海道大学大学院 歯学研究院口腔病態学分野
            口腔病理病態学教室 教授

主 催:北海道女性医師の会・北大キャリアシンポジアム実行委員会
    ・札幌医大キャリアフォーラム実行委員会
共 催:北海道医師会・日本女医会・至誠会北海道支部・札幌医科大学
    ・北海道大学医学研究科・北海道大学病院
    ・北海道大学病院男女共同参画推進室
    ・札幌医科大学附属病院女性医師等就労支援委員会

講演会『がんと遺伝子』講演後には、グループディスカッションを予定しております。

お問い合わせ:北海道女性医師の会事務局
       セントラルCIクリニック TEL: 011-623-1131
       ※託児サービスご希望の方は事前にご連絡ください


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Link『がんと遺伝子』
  ~私たちの研究が、患者さんの未来を変える~(PDF)
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